特集:のんびりたのしく北海道暮らし


「癒し」「ゆとり」といった事に関心が高まっている昨今。「心豊かに暮らしたい」と誰でもが願いながら、日々の雑事に追われたりと、なかなか難しいのも現実。
 今回は自分流の暮らし方を見つけて、「のんびり、楽しく、北海道暮らし」を実践している方たちを紹介しましょう。3組の方たちの暮らしぶりから、ちょっとしたヒントを見つけて、日々の暮らしに役立ててもらえたらと思っています。










高齢者の多いこの辺では
まだまだ洟垂れ小僧


「のんびり暮らしたいと思っていたのに、意外と忙しい」と笑う宮本弘夫さんが、奥様の豊子さんと、ログハウスを建てて札幌から喜茂別に居を移したのは8年前のこと。「いきなり小屋を建ててログハウス作りを始めた自分たちは、地域の人たちから奇異な目で見られていたかもしれません。なるべく町の行事に参加するようにして、徐々に認めてもらえるようになりました」。
 そして「この辺では、まだまだ洟垂れ小僧」と笑う。今では町内会長に推され、月に1回、地域のお年寄りたちを招いた「森のお茶会」を自宅で開催している。「高齢の人が多いので、送り迎えもします。でも昔話などが聞けるので楽しいですし、喜んでもらえると思うと嬉しい」。3月のお茶会では、座ってできる体操の講師を招き、12〜13人が宮本宅に集まったという。
 いっぽう奥様の豊子さんは、隔週1回学童保育所や保育所、小学校などで、絵本の読み聞かせをしている。「子どもたちだけでなく、子育て中の若いお母さんとも知り合うことができるので、楽しみ」と。お二人の言葉から、地域の人と積極的に交流を深めようとするご夫婦の姿勢がうかがえる。


宮本邸はご夫婦が協力し、4年をかけて完成




人が集まる場になるようにと、
ログハウスに「道草森」と命名


 「いろんな人が気軽に立ち寄って、寛いでもらえる場所にしたい」と願い、ご夫婦は自分達の家に「道草森(みちくさもり)」と名付けた。今ではいろいろな人が訪れる。時には見ず知らずの人がログハウスに気が付いて、喫茶店と間違ってやってくることも。「そんな時も拒みません」と笑うご夫婦。田舎暮らしを楽しむコツは、積極的に人とふれあうことにあるようだ。
 弘夫さんがログハウス作りを決意したのは56歳の時。「もともと田舎暮らしをしたいと思っていましたが、台風の倒木のカラマツが安く購入できると知り、早期退職することにしました」。同じように田舎暮らしに憧れていた豊子さんは、迷い無く賛同。
 現在の地に小さな小屋を建て、購入した100本のカラ松の皮をむく作業から、ログハウス作りはスタート。「これが一番大変でした」と当時を振り返る豊子さん。弘夫さんも「今思うと、体力や気力のあるうちに取り掛かれて正解でした。定年まで待っていたら、体力的に続かなかったかもしれません」。
 材木を積み上げたり、屋根をかける作業はプロに依頼。内装は自ら時間をかけてやったという。すべてが完成するまで4年かかったという。室内を見渡すと、木の1本1本がそれぞれちょっと曲がっていたり、亀裂入っていたりと同じものがなく、まさに手づくりならではの空間となっている。「カラ松はねじれや松ヤニが出るので、建築材としては最適ではないのです。でも、自分とほぼ同じ年齢だと思うと、愛着がわきます」。






農薬を使わずに
自分たちで作る野菜は格別


 宮本さん宅に入って目に付くのは、太い梁から下がったブランコだろう。遊びに来るお孫さんたちのために作ったものだ。そのほかにも大きなテーブルや椅子も、弘夫さんのお手製。いたるところに手作りの暖かさがあふれており、ご夫婦の優しい人柄が感じられる。
 リビングとキッチンにはマキストーブが置かれており、暖房はこの2台のストーブだけ。冬はガスを使わず、豊子さんは、このマキストーブですべての料理をまかなう。「断熱材は屋根にしか入れていませんが、十分に暖か。冬は、ストーブに使うマキ作りに忙しい」と弘夫さん。樹木の水分が少なくなっている2月〜3月が、マキ作りに最適な時期なのだそう。
 雪が溶けた6月中頃から野菜作りが始まる。「10月くらいまで畑仕事が続きますが、農薬を使わずに、自分たちで作る野菜はとくに美味しく感じます」。また「山菜も取れるし、魚は釣りに行った友人が帰る途中で置いていってくれます。だからほぼ自給自足の生活。札幌から車で1時間半ほどなので、札幌時代の友人が気軽に来れる立地も良かったようです」とも。
 遊びに来た人たちに楽しんでもらおうと、家の裏側に遊歩道も作ってある。「笹を刈ったりと、手間がかかります」と話す弘夫さんは、どこか楽しそう。また敷地内にパン焼き用の石釜を備えた小屋もある。ここでパンを焼き、友人たちを招いて野外でホームパーティを開くこともあるそう。自然に包まれて食べる味は格別だという。最近はチーズと卵の燻製作りにも挑戦している。
 どうやら弘夫さんの「忙しい」という言葉には、「楽しい」「充実している」という意味が含まれているようだ。自分たちの生活を語るお二人の穏やかな表情からは、無理をせずに自然体で田舎暮らしを満喫しているのが伝わってくる。

大きな吹抜けにマキストーブ。
木の温もりに包まれた室内では、時間がゆっくりと進んでいるようだ