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好文堂 建築家・中村好文の家具とお気に入り 開催記念 special interview
中村 好文
建築家であり、家具デザイナーでもある中村好文さんが
手がけた作品と、お気に入りのモノを集めて展示する
「好文堂 建築家・中村好文の家具とお気に入り」。
札幌では、2005年の「建築家の流儀」以来の開催となるだけに、
楽しみにしている人も多いはず。
5月の開催を前に、ご本人から本展の話をはじめ、札幌や北海道の印象、
近況や挑戦したいこと、建築家および家具デザイナーとしての役割など、
硬軟織り交ぜながら、さまざまなお話をうかがいました。
Q1
「建築家の流儀」展から11年。
今回は「好文堂」展として、小粒ながら久々に札幌での開催となりますが、見どころと、展覧会に寄せる思いなどありましたら教えてください。
あ、もう、11年も経ったんですね。早いなあ。
思えば全速力で駆け抜けた11年間でした。日本全国を走り回り、海外にも足繁く出掛け、11冊の本を出版し、国内だけでなく、韓国、中国、カナダ、アメリカでも講演会を開き、来場者数万人という大がかりな展覧会を2度ほど開催し、生涯の友と巡り会い、美味しいものを食べ、大酒を飲み、大笑いし、大声で歌って、ときどき泣きました。
「見どころ」は、この11年間で「変わったこと」と「変わらなかったこと」でしょうか?…といっても深い意味はなく、ただ「変わった」小物や雑貨を出品し、「変わらなかった」家具を展示する予定です。
Q2
「好文堂」展のコンセプト、イメージ、展示作品の内容などを教えてください。
「好文堂」展ですから展覧会には違いありませんが、「好文堂」は家具や雑貨を扱うお店ですから、お店らしい雰囲気にしたいと思っています。本気で「お店やさんごっこ」をしてみたいのです。開店記念に「福袋」も用意しようか?… などという愉しい趣向も検討中です。
Q3
札幌展だけの企画、または新たに取り入れた企画などはありますか?
これまでぼくは職人仲間と二人三脚で家具を作ってきましたが、昨年、ひょんなことから福岡県吉井町にある「杉工場」という家具工場と知り合いました。今、その杉工場で鋭意試作している竹の座板と背板のダイニングチェアや桧の収納家具(引出し付きの箪笥=チェストです)などの新作を展示する予定です。また、皆川明さんと協働でデザインし、東神楽町の匠工芸で製作してもらっている家具なども展示したいと考えています。
Q4
札幌、そして北海道の印象(人、街並み、風土etc…)を教えてください。
札幌の友人から「あずましい」とか「あずましくない」という言葉を教えてもらいましたが、北海道の街も村も、そこに暮らす人々も、穏やかで、寛容で、温かくて「あずましいなあ」というのがぼくの印象です。もし、北海道で生まれ育っていたら、ぼくも「こんな風」ではなく、もっと「あずましい人」になっていたかも知れません。
Q5
建築家として、家具デザイナーとして、最近気になること、挑戦してみたいことなどがありましたら、教えてください。
気がつけば古希は目前(なんと!今年68歳になります)。ぼくのような呑気者でも、これから新しい住宅が何軒設計できるか?これから新しい家具がいくつデザインできるか?ふと、立ち止まって考えることがあります。で、「これからは、悔いのないよう、自分のしたいことだけをしよう!」としみじみ呟いたら、周囲からいっせいに「してきたじゃな〜い!」という声が高らかに上がりました。不徳のいたすところでございます。
Q6
過去および最近旅した場所、そこでの思い出、これから行こうと思っている場所、あるいは行ってみたい場所があれば教えてください。
昔からイタリア好きであちらこちよく旅してきましたが、近年はすっかりヴェネツィアに夢中です。
ヘミングウェイは自分の写真に「ヴェネトに魅せられた老人」と書きましたが、ぼくもまたヴェネツィアに魅せられた老人です。昨年の初夏から夏にかけては「人生の夏休み」などとキザなことを言って、2ヶ月ほどリアルト市場の傍らに小さなアパートを借りてヴェネツィア暮らしを楽しみました。
街歩き、運河逍遙、地元の食材を使って料理をし、量り売りのワインを飲んで昏々と昼寝、合間、合間に仕事をするという夢の日々。すっかり味を占めて、今年も初夏には里帰り(?)しようかと…画策中です。
Q7
旅の楽しみ方、旅から得るものなど、中村さんにとって「旅とは何か」を教えてください。
やっぱり、あれですね。ほら、だからそれなんです。
わかりやすく言えば、それのあれです。
ね?わかるでしょう?
Q8
本をたくさん書かれていますが、新しく出版する予定はありますか? または、書いてみたいテーマがありましたら教えてください。
今、TOTO 出版から出版する3冊目の建築本の編集作業中です。ほかには「住宅読本」の続編にあたる「家具読本」を筑摩書店から、変わったところでは事務所のまかないランチや台所をテーマにした本をPHP出版から出版する予定。ま、遅滞なく原稿が書けたら…の話ですけどね。
Q9
仕事ではなく、今やってみたいことはありますか?
あれば理由も教えてください。
「今、やってみたい」というより昔からやってみたいことに映画の仕事がありました。なかでも一番やってみたいのは映画美術の仕事。編集者から作家になった友人の松家仁之さんが「沈むフランシス」という北海道を舞台にした素敵な小説を書いていますが、もしそれが映画化されたら、だれがなんといっても美術を担当させてもらおうと鼻息荒く意気込んでいます。
映画関係者の皆さん、どうぞ、ヨ・ロ・シ・ク。
Q10
最後に建築家として、また家具デザイナーとして生きてこられた中村好文さんに与えられた役割とは、何だとお考えですか?
たいした役割を与えられてはいませんが、肩肘張らなくても、背伸びしなくても、立身出世を目指さなくても(つまり、新国立競技場の設計者になったりなんかしなくても)、建築を愛する気持、家具を愛する気持、もっと言えば日々の暮らしや人を愛する気持さえあれば、そこそこ愉しく人生を送ることができるものだ…ということを、実例として年の若い人たちに見てもらうことでしょうか。





PROFILE
中村 好文
1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。設計事務所勤務の後、家具製作を学ぶため都立品川職業訓練所へ。その後、吉村順三設計事務所で実践を積み、1981年にレミングハウスを設立。
1987年、「三谷さんの家」で第1回 吉岡賞受賞。代表作に「ReiI Hut」(栃木県、2001年)、「伊丹十三記念館」(愛媛県、2007年)などがある。『住宅巡礼』『住宅読本』『意中の建築 上・下巻』(新潮社)、『中村好文 普通の住宅、普通の別荘』(TOTO出版)など著書も多い。日本大学生産工学部建築工学科教授。

好文堂 建築家・中村好文の家具とお気に入り
会期/2016年5月17日(火)〜7月16日(土) 10:00〜19:00 日・祝祭日休館
作家在廊日/5月17日(火)・18日(水) ※その他の在廊日はお問い合わせください。
会場/Kita:Kara Gallery
札幌市中央区大通西5丁目大五ビルヂング3F TEL.011-211-0810
Mail:info@kitakara.in http://www.kitakara.org
■トークイベント/5月17日(火) 19:00〜
講演会テーマ「つどいの建築」
さっぽろテレビ塔イベントホール(札幌市中央区大通西1丁目)
一般 1,000円(税込)、学生 500円(税込) ※学生証提示